譲渡企業 譲受企業
有限会社中村企画設計 株式会社増田桐箱店
福岡県大川市/別注家具設計・製造 福岡県古賀市/桐箱の製造・販売

 

家具の街と言われる福岡県大川市で、高い技術力を武器に長年事業を展開してきた有限会社中村企画設計。そんな同社がなぜ、M&Aを決意したのか。創業社長の中村淳二氏と、譲受企業の株式会社増田桐箱店の藤井博文氏にこれまでの経緯と未来について伺った。

一時は、本気で廃業を考えた。自社が売れるはずないと思っていた

―まずは、創業の経緯からお話しいただけますでしょうか。

中村社長(以下中村) 今年で65歳になりますが、もともとは、大川市の木工所で婚礼たんすのデザインの仕事をしていました。結婚とほぼ同時期に独立し、分譲マンションの備え付け家具などのデザインをしていたのですが、当時、発注先の製造会社には図面と違うものを製作されたり、納期を守らなかったりすることが頻繁にありよく泣かされていました。
建設現場で建物一棟を建てる工程は、緻密に管理されています。家具の納品が遅れれば、その後全ての工程に影響を与えるため納期の厳守は必須です。「それなら、いっそ自分でやってしまおう」ということで、設計と製造どちらもできる会社として当社を立ち上げました。
当たり前のことを当たり前にきちんとすることで徐々に信頼を獲得し、事業を継続させてきました。今では分譲マンションだけでなく、戸建住宅や病院、学校でも当社の家具が使用されています。

創業当時(デザイン会社時代)の社屋

―M&Aについて考え始めたきっかけは。

中村 異業種交流会のセミナーなどで知識としては知っていたものの、「自社を買う人なんていないだろう」と決めつけていた部分もありました。ただ、私自身も年齢を重ねて会社の承継問題を考えなければならなくなった頃、3人いる子どもたちはそれぞれ自分で決めた別の道を歩んでいる。従業員承継も考えましたが、職人として優秀な社員は多いものの自ら手を挙げる者はおらず、それもまた難しいと判断しました。

―そのような中で、どのようにフォルテワンと出会ったのでしょうか。

中村 顧問税理士事務所のアップパートナーズの担当者から、アップパートナーズグループ内にM&A部門があると聞きました。長年のお付き合いで信頼していたので、軽い気持ちで一度会って話を聞いてみることにしたのです。
ただ、自社の売り上げが年々下がっていたこともあり「買い手企業が出てくるはずがない」との思いからなかなか動き出せず。
それから半年が経ち、いよいよ廃業しようという気持ちが強くなった時に「どうせならM&Aも検討してみよう」と思い、ダメ元でお願いすることになりました。いざお願いしてみると、思っていたよりも多くの候補企業をご提示いただいたのでとても驚きましたね。

有限会社中村企画設計 中村社長

―譲渡先企業は、どういった条件で探されたのですか。

中村 地元で噂になりたくなかったので、大川市や鳥栖市などの近隣企業以外で探していただきました。
企業選定時は、私自身が現役で現場に出ていることも配慮していただきました。自社を任せられるかを決める上で、数字だけでは分からない相手方の温度感は特に気になるところです。フォルテワンの担当者は、あらかじめ候補先に直接出向き、本気度や譲受後の考えを聞いた上で私の方まで伝えて下さいました。お陰で本業に影響を与えず、効率的に交渉を進めることができました。

―譲渡先を探し始めて約半年、トップ面談1社目で成約が決まったと聞いています。

中村 はい、長くて2年かかるものと聞いていたので本当に運とタイミングが良かったです。藤井社長に初めてお会いしてすぐ「感じの良い社長さんだな」と思いました。私の場合は、譲渡後も一緒に仕事をすることが前提となっていましたので、人として気が合うかどうかはとても重要なポイントでした。
また、藤井社長が自分たちの息子と同じくらいの年齢だったところも良かったです。息子に譲ったと思えば今後もやりやすいだろうと思いました。

―社員の皆様へ説明した際の反応はいかがでしたか。

中村 驚いた顔をしていましたが、意外にも「あ、そう。」といった反応でしたね(笑)。
当社は、長年勤めてくれている社員が多いのですが、これまで会社の今後について心配させてしまっていたので、今回のM&Aで方向性が決まり安心できたのではないでしょうか。

2006年、社員旅行にて。創業当時からの社員が現在も活躍している。

感覚的には“投資”に近いM&Aだった

―次に、譲受企業である株式会社増田桐箱店の藤井社長にお話を伺います。まずは、事業概要について教えて下さい。

藤井社長(以下藤井) お祝い品や伝統工芸品の入れ物として使用される桐箱の製造・販売事業を展開しています。創業は90年以上前で、私は9年前に祖父から事業を承継した3代目です。
私が代表になってからは、新事業として雑貨や小物の加工販売を始めました。「桐の米びつ」など人気商品も生まれ、台湾やアメリカ、イギリスへ輸出するなど海外展開も積極的に進めています。最近では、SDGs関連のご注文も増えています。従来の紙箱のパッケージを、再利用できる桐箱に変更し、地球環境に配慮するということで、海外ブランドともお仕事をさせていただきました。

―既存の枠にとらわれず、新しいことにチャレンジしてきた企業ということですね。M&Aを考え始めたきっかけは。

藤井 桐箱業界のマーケットはすでに飽和状態で、以前から不動産投資などを積極的にしていました。そのため、今回のM&Aもどちらかというと“投資”に近い感覚でしたね。
いただいたお話を聞いてみると、同業であることと大川市に拠点があることに強く魅力を感じました。大川市は家具の街として知られるように、市内に家具屋や材料屋、塗装屋、刃物屋などが集積しています。古賀市で事業をする私としては、以前から「大川で仕事ができるとより効率化できる」ということは当然考えていました。また、大川市内に下請け企業や外注先があること、現在の事務所が手狭になっていることを考えると、物流面でも大川に拠点があると良いのではと考えていて、実際に大川に倉庫を持った場合や、大川に支店を構えた場合を想定しシュミレーションしていました。
ただ、我々が新規で大川に支店をつくると、同業者からよく思われないのではという心配もありました。そういう意味でも、拠点を確保できただけでなく、横のつながりも一気に広げられたというのはM&Aならではでしたね。

株式会社増田桐箱店 藤井社長

―M&Aの決意を固める上で、どのような目線で中村企画設計という会社を見ていかれたのでしょう。

藤井 お話をいただいた時からかなり前向きに検討していたので、トップ面談の時は実際に現地を見てブレーキを踏む目的もありました。減点方式でいろいろと見て回ったのですが、使っている機械の8割が当社で使用しているものと同じだったこともあり、実際にはあまり減点にはなりませんでした。
懸念していた売り上げの減少は、単純な数字よりも利益が何に基づいて出ているのかを知るようにしました。中村社長に話を聞くと、商品価格や仕事の取り方にも改善の余地はあると感じましたが、一番の課題は売り上げの山と谷の差が大きく、それをそのままにしてしまっていることだと感じました。ただそれも、当社の販路を活用すれば埋めることができる、改善の余地があると確信して“面白い”と感じた瞬間でした。

2021年8月、中村企画設計にて

―コロナ禍というのはネックになりませんでしたか。

藤井 コロナはむしろチャンスだと捉えていましたね。今のうちに仕込みをすることで同業者に差をつけておく考えです。
出張もほぼ無くなり社員も会社にいることが多かったので、自分の会社を見つめ直す良いきっかけになりました。祖父から引き継いでから今までは、我流というか、勢いでやってきた部分もあったのですが、今回を機に「本来自分たちが持つ強み」や、これまでは自社がどう生き残るかという目線のみで物事を考えていたのを、ゼロベースで考えた時に「どこの企業と組むとどういう効果が生まれるのか」とか、そういった会議を社内でできたのはコロナ禍だからこそでした。
昨年からはネットショップに力を入れていますが、ラインナップの中に家具という新商品が増え、ますます会社が大きくなると考えると非常に楽しみです。

互いに発展し合える関係に

―ここからはお二人揃ってお話をうかがいたいと思います。クロージングから約1カ月、既に動き始めていることはありますか。

中村 先日、増田桐箱店の社員の方が当社へ見学に来られました。
藤井 その時に思ったのが、普段当社の職人たちは寡黙であまり自分から話さないのですが、めちゃくちゃ質問していました(笑)。同じ木材加工業とはいえ、作っているものが違うので、どうやって加工するのか、なぜこの加工をするのかといったところに興味があるようで、単純に飲み会を開催するよりも工場見学を通じたほうが社員はやる気が出るのだなと実感しました。

自社の工場を説明する中村社長(奥)と、増田桐箱店の社員(手前)

―M&Aが早速人材に良い影響を与えていますね。事業としてはどうでしょうか。

藤井 既に始めているのはふるさと納税の返礼品事業です。古賀市では、はじめにお話しした「桐の米びつ」などの雑貨を出品していて非常にご好評をいただいています。先週から中村企画設計でもふるさと納税の取り組みをはじめ、販路を一気に拡大できるようになりました。

―なぜふるさと納税なのでしょう。

藤井 実を言うと、ふるさと納税は日本の販売の仕組みの中で一番現金が入ってくるのが早いのです。通常の小売業者の場合だと、入金までに50日程度かかりますが、ふるさと納税は平均15日で入金されます。つまり、材料代を支払う前に入金されることになります。
中村企画設計は良い商品を作っているが、入金サイクルが私たちよりも長いと感じました。ですので、売り上げの山と谷を埋めるためにふるさと納税事業を始めることでキャッシュフローを一気に改善できると思いました。
中村 現在は、返礼品の出品用に、新たな家具の試作を一緒に進めています。

―今後のビジョンについて教えてください。

中村 私としては、藤井社長はお若くて気力もあるので、販路というところについてはかなり期待しています。
藤井 これまでプロ仕様で家具を作ってきた中村企画設計は、もっと一般消費者向けに展開しても勝算はあるとみています。一つ例を挙げると、ドアを目一杯閉めるのを繰り返しているとだいたい金具にはガタが来ます。中村企画設計には、強く閉めてもゆるやかに閉まるように金具を微調整できる技術がある。これは、購入しやすい価格帯の家庭用家具にはあまり無い要素で、こちらが欲しい部分と中村企画設計が持つ知識を掛け合わせるだけで新しい展開ができるだろうと考えています。

M&Aの“検討”からはじまる

―M&Aの認知度が高まり、仲介会社やネット上のマッチングプラットフォームもますます増えてきています。

藤井 どれだけ気の合う社長で、お互いのニーズが一致したとしても、M&Aは最終的にお金が絡んできます。今回のように譲渡が終わったあとも一緒に働くケースだと、お金の問題を解決できているのか、そうでないかで後々かなり違ってきます。トラブルなく進めるという意味でもプロの第三者を介した方が結果的に良いのかなと思います。
中村 その点で言うと、仲介をしたフォルテワンが顧問税理士事務所のグループ会社だったことは大きかったですね。長年、経理を見ていただいていたのでスムーズに進めることができました。交渉過程では、さまざまなことを同時に進めないといけませんでしたが、担当の方には連絡もこまめにしていただけましたし、今すべきことの指示も的確だったので苦労することはほとんどありませんでした。フォルテワンにお願いして本当に良かったです。

―では、最後に今後M&Aを検討される方に向けて、思うところがあればお聞かせください。

中村 売り手側から言えるのは、「廃業を考えるくらいならM&Aを一度検討してみても良いのでは」ということです。今回の件で、タイミングの重要性を実感しました。少しでも遅くなると、こうはなっていなかっただろうと思いますし、手遅れになる可能性もあったと思います。思い立ったらまずは行動してみることですね。
藤井 買った側から言うと、今後もっとやるべきだと思います。ただそれは、M&Aをしたほうが良いと言いたいのではなく、まずはM&Aの“検討”をした方が良いということです。今後の事業の展開を考えるにあたって、設備投資をするのか、それとも今回のような形で第2の柱を持つのかなどの検討手段になりました。

―M&Aを検討することで自社が今どの位置にあるのか知ることも大事ということですね。

藤井 そうですね。今回をきっかけに仮に自分が会社を売るとしたらどうなるだろうということもすごく考えました。M&Aを毛嫌いせずにまずはいろいろと話を聞くことから始めて、自社の将来について考えるきっかけになればいいかなと思いますね。

―本日はありがとうございました。

 


2021/8/17
取材:アップパートナーズグループ広報 堀 彩寧