一般的にM&A仲介会社は、譲渡企業と譲受企業の間に立ち交渉の仲介やアドバイスをすることでスムーズなM&Aとなるよう支援しています。しかし、弊社のサービスはそれだけにはとどまらず、お客様の課題を改善し企業価値を高める経営改善コンサルティングも実施しています。最近支援させていただいた㈱宮崎建設様を事例に、フォルテワンの経営改善コンサルティングをご紹介いたします。

創業約60年の社寺専門建築会社

―まずは、事業概要から伺っていきたいと思います。

青木 翼社長(以下青木) 弊社はお寺などの社寺を専門にした建築会社です。お寺は建設から200~300年が経つと傾きや雨漏りなど老朽化が進むため、建て替えが必要になります。そういった際に、私たちが企画・設計から施工まで一貫して手掛けています。
エリアは北部九州が多いですが、九州全域で対応可能です。社寺建設業界は歴史が長く、最も古い企業は飛鳥時代から続いています。弊社は、創業から60年弱なのでまだまだ新参者です(笑)。

―青木社長は2代目と伺っています。

青木 はい。もともとは、祖父が一般住宅の大工をしていましたが、昭和の終わり頃に宮大工の方に誘われたのをきっかけに社寺の建築をするようになったと聞いています。私は、ゼネコンで投資用マンションや不動産開発の営業を経験した後、25歳の時に経営を継ぐことを視野に戻ってきました。
弊社の社寺建築は、自社製材の木材を使っていることが特徴です。九州産のヒノキを仕入れ、本社敷地内の工場で加工します。ほとんどの社寺建築会社は材木屋から製材済みの木材を仕入れますが、自社で製材することでコストを抑えることが可能です。

社寺建築に使用する柱は本社敷地内の加工場で製材される

祖父の残した売掛債権の焦げ付き
頭をよぎるM&Aの選択肢

―そういった中で、フォルテワンの扉をたたくこととなったわけですが、どのような経緯があったのでしょうか。

青木 先代の売掛債権の焦げ付きが尾を引き、債務超過になりました。2018年当時、私は専務で承継直前の時期でした。このまま10年くらい事業を続ければ、債務超過は解消できるはずですが、10年もの間ぎりぎりの状態を続けることは正直しんどいと感じたのと、最悪の状態になった場合を考えました。とにかく必死で、この状況を抜け出すためには何でもするという心意気でした。その選択肢の一つとしてM&Aを考え、仲介会社を探していました。

―その当時、M&Aという言葉は今ほど一般的では無かった気がします。

青木 そうですね。実際に大手M&A仲介会社にも話を聞きに行ったのですが、当時はまだ福岡に職員がおらず、東京から出張で対応してもらうというような形でした。また、相談に行っても「相手先があれば」という回答で、積極的に動いてくれる様子ではありませんでした。そこで、地場のM&A仲介会社をインターネットで探し、見つけたのがフォルテワンでした。古舘さんは私の話を親身になって聞いてくれ、信用できる方だと思いましたのでこちらにお願いすることに決めました。

古舘 慎一郎(以下古舘) 青木社長へのヒアリングを重ねた結果、正直買い手企業を見つけるのは簡単ではないと思いました。しかし、社寺建築という希少性の高いビジネスや自社製材へのこだわりなど事業として光るものがあると感じましたし、何事も行動してみなければ分かりませんのでさまざまな企業への提案を開始しました。

―買い手候補企業からの反応はいかがでしたか。

古舘 悪くは無かったですよ。先ほど申し上げた強みももちろんですが、創業60年という歴史や、建設業界は人材不足の傾向にあるなか、地元の若者の採用に成功している点を評価していただく企業もありました。ただ、やはり借り入れが重いことが懸念点となり、成約には至りませんでした。
いよいよこのままではまずいという話になり、経営立て直しに向けた動きをしていくことになりました。M&Aに向けた動きを開始してから2年が経ったタイミングでした。

経営改善のための19のアクションプラン

―経営改善コンサルはどのように進めていったのでしょうか。

藤井 雅巳(以下藤井) 当時は資金繰りが本当にぎりぎりの状態でしたので、まずは課題に向き合う時間を稼ぐためにコロナ融資制度を活用し、資金繰りを落ち着かせました。そして、経営不振の原因を扱えるように分解し、改善の具体的な指針となるアクションプランに落とし込むために、何度もヒアリングを重ねて深掘りをしていきました。

古舘 宮崎建設様の場合、課題は大きく4つありました。中でも深刻だったのは受注や単価に関する課題と原価に関する課題です。新規開拓をせず既存客に頼り切りになっていた上、資金繰りが厳しいため無理をしてでも仕事を取ってこなければならない状況で、本来の価値よりも低い価格で受注してしまうという負の連鎖となっていました。

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青木 私も頭の中では分かっていたものの、目の前の資金繰りを優先してどうしても安く受注してしまっている状況でした。

古舘 課題に対して原因を分析しながら、4つの課題それぞれにアクションプランを立てました。図を見ていただくと分かると思いますが、アクションプランの内容は案外シンプルです。檀家の数・社寺の規模ごとに分けた営業リストの優先順位付けや、営業資料はワードではなくパワーポイントを使って視覚的にも見やすいものを作りましょうといったアドバイスをしました。
ただし、私たちが支援できるのは課題の把握やアクションプランの作成までです。経営改善をする上で一番重要なことは、逆風の状況下でもやりきる社長や従業員の実行力です。

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藤井 これだけたくさんのやるべきことを可視化すると、やらない理由を見つけてクライアントが逃げ出してしまうのは経営改善コンサルではよくあることです。宮崎建設様も定期的に進捗を確認するとタスクが進んでいないことが多々ありましたので、その原因を探るために、一時期は青木社長と夜の9時頃からコーチングのためのミーティングをしていました。

青木 その時のことは、よく覚えています。当時は、月末の契約を取らなければ資金が足りなくなるかもしれないほどぎりぎりの状態でしたので、かなり焦っていたというのが正直なところでした。ミーティングは深夜におよぶこともあり「ここまでやってくれるのか」と感謝してもしきれない思いでした。

「夜のミーティングのことはよく覚えている」と話す青木社長(中央)

藤井 私も青木社長の厳しい状況は理解していましたが、それでも心を鬼にして「やるべきことはきちんと進めていかないといけない」という話を繰り返し何度も伝えました。こういった状況でよく用いられるものに「重要度/緊急度マトリックス」があります。ものごとを「重要」と「重要でない」、「緊急」「緊急でない」の4つのマトリックスに分け管理するというものです。自分ではなかなか気付かない方が多いのですが、人はすぐにできる優先順位の低いタスクに手を出しがちです。ただ、それを続けていると本来取り組まなければならないことが疎かになっていっこうに進展しないことになります。そういう場合に「緊急で重要なこと」や「緊急でないが重要なこと」に取り組めるようコーチングしていくことが私たちの役割でもありました。

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“価値を適切に伝える”ための営業に着手

―青木社長は、取り組んだアクションプランの中で印象に残っているものはありますか。

青木 建物診断キャンペーンでしょうか。これまで積極的な営業活動はしてきませんでしたので、初めて新規の獲得に向けて取り組んだ内容だったと思います。

古舘 売上は、単価と量の掛け合わせです。これまで価格を低く設定していた分、既存のお客さまへの単価上げはすぐには難しいと考え、新規を獲得していくための取り組みとして始めました。

藤井 本堂の建設は1億円以上かかりますので、新規のお寺にとってハードルが高いです。そのため修繕や修理、うまく行けば2000~3000万円の門や鐘楼から始め、技術や仕事ぶりを見てもらうことで大型案件の受注につなげようとしました。
うきは市から車で約2時間で行ける福岡県、佐賀県、長崎県のお寺をリストアップし、ダイレクトメールの送付や訪問営業など宮崎建設様を知ってもらうためのきっかけづくりを実施しました。結果としてお客様からの反応も複数件あり、青木社長にも成果を出すためにアクションしていくことの大切さを実感していただける良い機会になったと思います。

青木 その他にも、営業ツール作成には特に力を入れて取り組みました。施工したお寺の住職の方へインタビューを実施し、小冊子を作ったこともありました。私たちの強みの木材へのこだわりや弊社に依頼を決めた経緯、工事中のほっこりエピソードなど真面目な話からそうでない話まで読みものとしても楽しめるよう工夫しました。この小冊子は、弊社の建築イメージを伝えやすくし信頼性の向上にも役立ったと感じています。
また、インスタグラムを通じた情報発信にも取り組みました。こだわりのある社寺を自分たちの言葉で発信することで、職人のなり手を増やし継続して職人を育成していきたいとの考えからです。インスタグラムを通じて仕事の問い合わせが来たこともありましたし、学生さん2名から採用の問い合わせが来たときは特に嬉しく感じました。今では、フォロワーも2000人を超えています。

長く続いた苦しい時期。身近に頼れるプロがいて良かった

-アクションプランが道半ばのうちにM&Aが決まったと聞いています。

青木 実は、少しずつ成果が出てきたものの資金繰りの改善には至っていないタイミングでM&Aの話が舞い込み、現在は、福岡の大手物流会社丸善グループ傘下に入っています。大きな企業がバックについたことで信用力が増し、以前より余裕のある経営ができるようになりました。経営改善コンサルをきっかけに始めたDM営業や工場・建設現場の見学会は今でも継続して実施しています。実施できなかったアクションプランは、少しずつですが現在取り組んでいる状況です。最近は、引き合いが多くて人手が足りないくらいです(笑)。

―最後に、フォルテワンに依頼した感想を教えてください。

青木 初めの頃は、M&A仲介会社の経営改善コンサルなので正直期待していない部分もありました。ただ、アクションプランなどの提案も的を射ているものばかりでしたし、何よりアドバイスをして終わるのではなく、夜のミーティングなどこちらのモチベーションを維持するような関わり方をしていただけたことは期待以上でした。私も会社を引き継いだばかりで決して経営スキルが高いとは言えない状況でしたが、何でも相談できるプロが身近に居たことはとても頼もしく心の支えになりました。

古舘 ありがとうございます。私たちも宮崎建設様とは約4年というかなり長い期間、関わらせていただきました。苦しい時期も長く、青木社長のメンタル面が心配になる時もありましたが、今日こうやって笑顔でお会いできてとても安心しました。これからも陰ながら応援しています。

-本日は、ありがとうございました。

 


2023/3/24
取材・文:アップパートナーズグループ広報 堀 彩寧